(前回のあらすじ)
FIRE直前に現れた理想的な若き上司。
彼を裏切りたくないという一心で、俺はサラリーマン人生最後の「ラストダンス」として、仕事への情熱をムリに再点火させた。
まだ第1話、第2話を読んでない人はこっちから読んでみてな。


こんなに真剣に仕事に向き合ったのは何年ぶりやろうか。
その上司が来てからの俺は、自分でも驚くほど真面目に働いた。
営業車の走行距離は、月間3,500kmを超えていたと思う。
1日200km超えの運転なんて、しょっちゅうや。
製薬会社のMRで、ここまで走り回ってるヤツはそうはおらん。
医師という職業はごっつ多忙やから、ほぼ100%事前にメールや電話でアポイントを取らな面談はできひん。
だから、効率よくアポイント入れても面談できるのは1日せいぜい2〜3人や。
俺は毎日2〜3人の医師へのアポイントを入れまくった。
医局説明会の予約も詰め込んだ。
上司も予定が許す限り同席して、俺をフォローしてくれた。
正直、もう出世も昇給も関係ないFIRE目前の俺にとって、そこまでする意義はなかった。
でも、妙な充実感があった。
それはそれで、楽しかったんや。
しかし、その日々も長くは続かなかった。
その年の年末、ついに俺の予想通り第2回の「早期退職パッケージ」が発表された。
ここで手を挙げて承認されれば、とうとう俺が20年以上夢見てきたFIREが現実になる。
いざその場に来ると、まるで他人事のような、言葉にするのが難しい変な感覚やった。
当時の資産は2億に少し届かんくらい。
本音を言えば、もう少し積み増した方が安心感があったんやけど、この機会を逃す手はない。
俺は一切躊躇せず、「退職希望」のメールを送信した。
ただ、一つだけ本気で怖いことがあった。
2年前のときには、会社が「残したいヤツ」には「退職却下」の返信が来ていたと聞いた。
半年間頑張って仕事をしてしまったせいで、「退職却下」のメールが来たらどうしよう……。
実は俺、1社目の会社でも早期退職に応募してなんと「退職却下」された苦い経験があるんや。
そのメール見た瞬間唖然として、しばらく何も手につかんかったわ。
230人くらいが応募して却下されたのはわずか20人程度。
大魚を逸したその経験から、俺は「割増退職金を受け取りたかったら会社に評価されたらあかん」という教訓を骨の髄まで刻んだ。
そのときのツラい記憶が頭をよぎる。
メール送信後、生きた心地がせんかった。
でも今回はその心配は杞憂に終わり、無事に「承認」のメールが届いた。
会社のノートPCの前で、思わずガッツポーズ!!したわ。
たった半年やったけど、最後に一生懸命仕事をしたことは今でも良い記憶として残ってる。
終わりよければすべてよし。
俺のサラリーマン人生は、最高の形で幕を閉じたんや。
完


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